環境と漂う島
地域と支え合うデイサービス
横浜市旭区にあるデイサービスの庭と内部空間を改装するプロジェクトです。福祉施設は介護の効率やセキュリティの関係上、どうしても地域から閉ざされた空間になりがちです。地域と物理的な境界線があることで、介護する人とされる人の役割が固定化され、空間もそれに応じて、ここは食べる場所、ここはものづくりする場所といったように、無機質で均質なものになっていました。本来、生きることの喜びはサービスにおける二分化した貧しい人間関係でなく、捉えようのない無限の支え合いの関係から浮かび上がってくるものです。わたしたちは、福祉施設を地域に開き、地域と福祉施設が支え合う存在になることで、誰もが「ともに生きることの喜び」を発見できる場になるのではと考えました。
わたしたちは、福祉施設を少しだけ開くことと、坂と庭、内部空間を「島」によって視覚的・空間的・機能的につなげることを考えました。庭と前面道路の坂の境界に引かれているフェンスを一部取り除き、地域からアクセスできるようにし、庭の中央にはレンガを敷いて、利用者や地域の人の外の活動を支える工房広場を設けました。また坂がもたらす暗がりや開放感、たくさんの人に愛されている桜の木、地域の人と一緒に作業する畑など、小さな環境の違いに合わせて変形させた「島」のような什器を、建物内外で連続するようにパラパラと配置しています。それぞれ島が独立した形をしているため、場所の役割を限定することなく、その場所の環境に素直な居場所になります。また、異なる形の島が内外で連続することで、島同士が関係付き、地域と福祉施設、人と人の多様な距離感が生み出せるのではないかと考えました。
さらに、島の形に決定していった理由の一つに、グネグネと曲がった流れのある動線空間を作りたいというのがあります。戦後の大量生産型のこの施設は、改装前は、柱が等間隔で配され、同じ大きさの四角のテーブルがずらっと単調に並んでいる様が特徴的でした。島をバラバラと連続させることで、単調な雰囲気を崩すようにグネグネとした動線空間が生まれ、不自由だけど楽しげなまちのような風景になると思いました。
この改装プロジェクトは、単に介護のサービスを横滑りさせることなく、誰もが持っている生きることの素晴らしさを取り戻したいと願う福祉法人の大きなチャレンジです。わたしたちはその強い信念に大変共感し、地域に開くことによる危険性や、不成形な形の什器による不自由さなどによる様々な障壁に空間的にチャレンジしています。
LOCATION 神奈川県横浜市旭区
DATE 2021~
STATUS 進行中
TYPOLOGY デイサービス
PERSON 武部大夢,長岡稜太
PHOTO nata studio